研究概要 |
癌化に伴う足場非依存性増殖能の獲得機構と染色体異常の発生機構を探るために、EGFとTGFーβによって可逆的に癌化が誘導されるNRK繊維芽細胞の変異株を用いた細胞内発癌シグナル伝達経路の分子遺伝学的解析とヒト細胞のG2期細胞周期制御遺伝子の単離解析を進めている。これまでの成果として、細胞内発癌シグナル伝達経路に関しては、少なくともNRK細胞では、EGFとPDGFによって共有されるシグナル伝達経路が、発癌シグナルの主要な伝達経路であること、増殖誘導シグナルと発癌シグナルは同一ではないこと、erbB,fms,fes,mos,ras,fos,polyoma mTの作用点が、src,raf,adenoElAの作用点の上流にあることが、更に生化学的解析からも強く示唆された。一方、足場非依存性増殖能と細胞周期との関連を検討した結果、足場非依存性増殖能とEGFとTGFーβによって足場非依存性にG1からS期に細胞が進行できる能力とに強い相関があることが見出された。従って、足場非依存性増殖能の本態が、細胞が足場非依存性に細胞周期のG1からS期に進行できる能力の獲得にあると解釈された。他方、染色体異常の発生機能を探めるために、細胞周期のG2期の周節因子遺伝子のクロ-ニングを進めたところ、分裂酵母のcdc25遺伝子に対応するヒト遺伝子の単離に成功し、更に、この遺伝子の発現がある種の癌細胞で著名に昂進している事実を突き止めた。分裂酵母では、cdc25遺伝子の発現昂進によって染色体異常が誘導されることから、少なくとも一部の癌細胞で見られる染色体異常が同様の機構によって発生している可能性が明らかとなった。
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