研究分担者 |
鷲田 清一 関西大学, 文学部, 教授 (50121900)
安彦 一恵 滋賀大学, 教育学部, 教授 (20135461)
川本 隆史 跡見学園女子大学, 文学部, 教授 (40137758)
佐藤 康邦 東洋大学, 文学部, 教授 (80012508)
大庭 健 専修大学, 文学部, 教授 (00129917)
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研究概要 |
本年度は,前年度の研究活動を通じて得られた一定の成果,すなわち“Why be Moral?"問題の特性および問題圈の限定等に関して得られた知見をもとに,分担者,協力者それぞれの専門領域に即した個別研究の進展および相互批判を通して,道徳規範の根拠づけの可能性一般について一定の見通しを獲得することが試みられた。年間2度の全体会議および数度にわたる個別の部会において取り挙げられたテ-マは,一般的視点からは,道徳性の根拠問題,徳論と行為論の関係,思考と道徳との関係等の問題であり,個別問題としては,約束規範の構造分析,討議倫理学と新アリストテレス主義の相異と関係,更にはデカルト,カント,ハイデガ-,現象学,A.セン等の思想の“Why be Moral?"問題への寄与の可能性の問題等であった。これらの問題の論究と討議によって得られた知見の大略は以下のようにまとめられよう。まず中心問題となる道徳規範の根拠づけ問題に関しては,従来なされてきたような人間一般の道徳的アプリオリに基づく論議および根拠づけの思想そのもののもつ構造上,内容上の難点が多様な局面から一層明確となった。またそれと連関して,倫理的エゴイズムの反道徳性を合理的に論証することの困難さも明らかにされた。そのためそこから,従来の方式とは異なった仕方での論証の可能性,たとえば行為の間人格性や形成的行為のもつ意義と役割の強調,更に思考の行為的性格の見直し,或いは更にカントの反省的判断力や範例の考え方の再評価等が試みられることとなった。しかしこうした試みは、特定の解答や道徳規範の普遍的で唯一の根拠の獲得をめざすものではなく,むしろ現代可能な道徳規範の存在理由への問いの方向と問い方の可能性とを,いわゆる超越性へ向かうことを回避して,上記のような人間の多様で相互連関的な諸特性のうちに見い出していこうとする点に本来の目的を置いているといわねばならない。
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