研究概要 |
本研究の目的は無限自由度カオス系の複雑な動的挙動を情報処理の観点から解明する事にある。第一の目的は情報理論に基づいて大自由度カオス系に於る情報の流れを定量化する方法を確立することである。本研究では相互情報量や情報流率,多点相互情報量等を導入する事によって大自由度に分散された機能の動的な連結性を解明する方法が発展させられた。この方法は生体系特に粘菌変形体の協同的アメ-バ運動の解析や物理系,特に非線形光学系や流体系でみられる乱流現象の解析に用いられ成果をあげている。粘菌変形体中の情報伝置に与る位相波の空間的動的な連結性や乱流現象における乱れの発生,伝播の機構が明らかにされてきた。本研究のもう一つの目的は複雑な動的挙動を系に内在する情報処理過程として捉える事にあった。本研究では,特に大自由度カオス系でしばしば見られる「カオス的遍歴」と呼ばれる現象に焦点をあわせ,その解明に力を注いだ。その結果この現象(以下CIと略す)が雑音に誘起されて発生する遍歴現象と著しく異り,高度に組織化された現象であることが明らかになってきた。特にアトラクタ-遷移過程の強い指向性,遍歴の履歴性等が注目に値する。この特性は光乱流や脳神経回路網のモデルに於て特に顕著である。神経回路網のモデルによる解析ではCIが回路網の情報判別機能や学習能力等に積極的効果をもたらす事が示唆された。CIの研究は結合写像格子系でも精力的に進められ,秩序相一カオス相間遍歴や速度選択状態間の遍歴等が新たに発見された。注目に値する発見は大域的結合系の巨視的変量にみられる非熱力学的な揺らぎの存在であろう。これは大自由度カオスの組識化された側面を示す直接の証拠である。実験的には液晶対流系における大自由度カオスの研究が進められ,対流格子上に生成されたタ-ゲットパタ-ンのライフサイクルが研究された。また格子欠陥をつなぐ紐構造の実験的研究も進行中である。
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