研究概要 |
最近におけるDNAフィンガ-プリント法,PCR法などのDNA多型の解析法が、動物社会研究に不可欠である血縁判定にどれだけ役立つか,またそれにより社会進化理論にいかなる変革が生じうるかを検討し,将来の重点領域研究を準備する目的で,この総合研究を計画した。日本ではこれまで生態・行動学者と生化学・分子生物学者が全く別個に研究していた弱点をふまえ、本研究では両者が会合し,あるいは共同実験により課題を明らかにすることをめざした。このため平成2年6月30日,7月1日に研究班9名を含む15名が名古屋で第1回研究会を実施した。ここでは霊長類・鳥類におけるDNAフィンガ-プリント法の利用例と、それによってサルの順位制の再検討や鳥類における乱婚の発見などがなされたことが報告され、これに対し法医学や分子生物学の立場から多くの助言がなされた。また昆虫においては、DNA量が少ないこと、共生微生物のDNAによるノイズの問題があることが報告され、これをいかに克服するかについて討議した。討議のなかで上記等の困難を克服して分子生物学的技術を生物社会研究に適用できるならば、生物社会構造論,社会進化理論に大発展が期待できる点で意見が一致した。 この成果のうえで各人が半年間研究を行い、その成果を持ちよって平成2年11月18日,19日に東京で第2回研究会を行った。これには班員10名を含む15名が参加した。討議の中心はPCR法などの利用による昆虫等小動物や毛などによる血縁解析法の可能性についてであり、これらの方法が極めて有望であること,従って重点領域研究の準備にあたってはDNAフィンガ-プリント法だけでなく,各種の新研究技術を含む計画をたてるべきことが話しあわれた。なおこの研究会の後で公開講演会「DNA多型検出による動物社会研究」を実施したところ予想をはるかに上廻る90名以上が参加し、この種の研究への広い注目が示された。
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