研究概要 |
1.陽イオンが二次元的な自己拡散を起こすイオン性プラスチック相をもつブチルアミン塩酸塩結晶中の陰イオン拡散の様相を調べる目的で、9.4テスラ-超電導NMR装置によって、単結晶と粉末試料の ^<35>Cl NMRスペクトルを250ー480Kの温度範囲で測定した。スペクトルの解析から求めた ^<35>Clの核四極結合定数から、塩化物イオンも速い二次元自己拡散を起こすことが明らかになった。上記の ^<35>Cl NMRの実験は当初無機材質研究所で行ったが、設備備品として購入した6.34テスラ-超電導磁石と現有のNMR分光器に新しく製作したプロ-ブを用いて、 ^<14>N, ^<35>Clなど磁気モ-メントが小さい核種についてNMRの実験を行なった。 2.分子様陰イオンが自己拡散を起こす物質の探索として、ギ酸セシウムに着目し実験を行った。期待どうりギ酸イオンが自己拡散を起こす結晶相を見出した。 ^1H, ^2D, ^<133>Csのスピン格子緩和時間と電気伝導度の温度変化からギ酸イオンの全体回転と自己拡散の運動パラメ-タ-を定量的に決定した。 3.メチルアミン臭化水素酸塩におけるメチルアンモニウムイオンの自己拡散を ^1H NMRと電気伝導度によって研究した。熱測定の結果、480ー510Kに出現するプラスチック相は510K以下で融解する準安定相であるという興味ある事実を見出した。2、3の実験においては示差熱分析用セルと電気伝導度セルを改良し、迅速かつ精度よく測定出来るようにした。 上記の結果、イオン性自己拡散相は、分子様陽イオンばかりでなく陰イオンの拡散相、二次元拡散相、より単純な無機化合物のプラスチック相など広範囲に存在することが分った。融点におけるイオン拡散定数は、化合物の多様性にもかかわらず、ほぼ一定値(10^<ー12>m^2s^<ー1>)に収斂することが明らかになった。
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