研究概要 |
第3周期以降の典型元素を含む多重結合は、結合の原子間距離が長く、3p軌道の広がりが大きいので、いわゆるπ軌道の有効な重なりがあまり期待できない。また、sやpによる軌道の混成は起こりにくいことなどから、従来、化合物は不安定であるとされてきた。しかし、かさ高い置換基を分子に内蔵すれば、その強力かつ有効な立体保護効果により不安定化学種を速度論的に安定化できることが、近年明らかになってきた。本研究では、例えば2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基(Ar基と略称)などの示す大きな立体保護効果に着目し、RP=XやRC≡Pで表わされる2配位や1配位のリン原子をもつ化学種の発生と単離・同定を試み、それらの分光化学的性質、特に、 ^<31>PNMRのスペクトル解析などにより得られる情報から物性や構造、反応性を明らかにし、その特異かつ新規な結合様式、すなわち、低配位状態にある多重結合の本質を総合的に明らかにすることを目的とする。 まず、E/Z(-P=P-,-P=C<,-P=C=C=C<,-P=C=C=P-)あるいは、R/S(-P=C=C<,-P=C=P-)などの異性体が存在し得る系について、P=X結合の性質のひとつとして、異性化反応をNMR的に検討し、興味ある知見を得た。次に、-P=C=C<や-P=C=P-の累積度を拡張するため、ジハロカルベン付加、開裂反応を利用して、ホスファブタトリエン類(-P=C=C=C<や-P=C=C=P-)の合成単離に成功した。また、Ar基のほかに、2,4,6-トリ-t-ペンチルフェニル基やノナフルオロメシチル基、オクタメチルオクタヒドロアントリル基、また、アミノあるいはアゾ基を立体保護基にもつリン化合物を合成し、特異結合をもつリン化合物の安定化に有効であることを見いだした。さらに、ホスファアルキンの新合成法の開発として、ホスファエテニルリチウム化合物を低温で発生させ昇温したところ、興味ある転位反応が進行してホスファアルキン(RC≡P)が得られることを見いだし、反応の一般性を検討した。
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