研究概要 |
本研究は,通常,対人関係などとよばれている複雑な社会的相互作用における行動持性を客観的に相互比較することを可能にするために,その構造的特性に応じてそれぞれの社会的相互作用を半球形のヴェクトル空間内に表現する一般的技法を開発することを目的とする。その具体的表現技法の第一段階は,申請者が開発した「IFーTHEN法」とよばれる心理学的ゲ-ム論に基礎づけられた社会動機検出法を用いて社会的相互作用の基盤となる社会動機を9種の規範的動機群(単利動機・自虐動機・献身動機・加害動機・共栄動機・共倒動機・優越動機・卑下動機・平等動機)の成分比で表現することである。これらの規範的社会動機は,論理構造的には直交する平等動機を除いて明確な循環性をもつ。表現技法の第2段階は,対象とする社会的相互作用事態における社会動機構造は各種事態におかれた被験者の反応を実際に実験的に検出することにある。分析に当っては,実際に検出される社会動機の混合比は,循環性をもつ尺度上に動機成分の平均値のかたちで定位され,これがヴェクトルの方向を決定する。ヴェクトルの長さは単一動機成分のときに最大1となり,混合比の分散が大になるほどヴェクトルの長さが短くなるように表現される。すなわち,ヴェクトルの方向は社会動機成分の種類,長さはその純度を示すように変換される。実験では,各対人関係について全部で12名の被験者(大学生男女6名)にいわゆる想定実験に参加させた場合の「IFーTHEN法」に基づく反応が分析されたが,分析の対象にした19種の対人関係は,基本的には各対人関係を相互に弁別可能なヴェクトルで表現可能であるという結果を得た。このことは,対人関係という問題を量的に分析し相互比較することが可能なヴェクトル空間内に定位できる対象として考えることができ,したがって,対人関係の問題を新たな視点で構造論的に体系化することができる可能性をもっていることを示唆している。
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