配分額 *注記 |
5,300千円 (直接経費: 5,300千円)
1992年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1991年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1990年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
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研究概要 |
本研究の目的は、遷移金属イオンを含む有機低次元導体の電気伝導と磁性における,遷移金属d電子の役割を実験的に解明することである。このような有機導体の特徴は,遷移金属イオンの価数が半端になってd電子が伝導に関与したり,あるいは磁気イオン状態となって弱い磁性を担ったりすると考えられることである。本研究ではDCNQI-Cu塩に的を絞って,伝導電子状態を解明することを目標とするとともに,dmit塩については,電子物性のキャラクタリゼーションをすすめた。具体的には特に(DMeDCNQI)_2Cuのリエントランス転移の近傍での電子状態の解明に主力を注いだ。ほぼこの目標を達成することができた。 具体的な成果は次のようなものである。(1)DCNQI分子の水素原子を重水素に適当に置換すると,金属-絶緑体-金属のリエントランス転移が常圧でおこることを発見した。これを利用して,リエントランス転移近傍での性質を精密に解明することができた。(2)DCNQI-Cu塩のCuイオンは,平均価数+4/3値をもつことを実験的に議証した。(3)絶緑相の3倍周期状態で8K程度以下の低温で現れる反強磁性の磁気構造を明らかにした。(4)DMeDCNQI-Cu塩のリエントランス転移が,磁化率,3倍周期構造,銅イオンのまわりの構造変化にもそのまま現れることを発見した。(5)リエントランス転移の近傍では,磁化率の増加,銅イオンのまわりの構造変化などの絶緑相の特徴がすでに現れるとともに,10T程度の磁場によって絶縁相が安定化されることを発見した。(6)dmit塩では,電子性とホール性の数種の超伝導物質を発見した。また,次元性も2次元と1次元の両者があることを確かめた。 DCNQI-Cu塩の電子状態を理解するためには,DCNQIのパイ電子を主とする1次元的バンドのパイエルス転移,Cuのd電子を主体とするバンドのモット転移,銅イオンのヤーンテラー効果のいずれにも同等の役割を与え,柔らかい結晶格子との相互作用を取り入れればよいということを明らかにした。今後に残る問題はなによりもまず,リエントランス転移のミクロな原因を実験的に確証することである。これによって,この物質系の物性全体の見通しが明らかになり,あらたな目標たとえばDCNQI塩での超伝導や強磁性の達成にむかうことができるであろう。
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