研究概要 |
低地球軌道上でのトライボロジ-現象を研究するため,5eVの運動エネルギ-を有する原子状酸素をグラウンドベ-スで発生させることが急務となっている。本研究では高速分子線バルブから導入した酸素をXeア-クフラッシュ光によって原子状酸素に解離させる新しい手法を開発した。製作した原子状酸素発生装置は10^<ー6>Paのベ-ス圧力で,原子状酸素ビ-ムのエネルギ-を低地球軌道上の値である5eVとするとともに,30eVまで可変することができた。また,フラックスも10^<16>atoms/m^2S以上を得ることができたので,当初の目標である低地球軌道上(500Rm前後)の原子状酸素環境シミュレ-タを製作することができることができた。本装置では純酸素ガスのみを用い,Xeア-クフラッシュ光によるガスブレ-クダウンに加え,小型YAGレ-ザ-を援用してブレ-クダウンの作動を確実にした。スペ-ストライボロジ-に使用されている二硫化モリブデンは原子状酸素によってSO及びSO_2として硫黄が脱離した後MoO_3を主とするMo酸化物が形成されることがXPSによる分析から明白となった。HOPGグラファイトもCーO及びC=0ボンドが多数発生し,反応が進行するとカルボキシル基が生成されることが同じくXPSによって解析された。天然グラファイトも炭素KLLオ-ジェピ-クからショルダ-が消失し,基底面構造が損なわれるという表面構造の劣化が認められた。原子状酸素を照射した二硫化モリブデンでは摩擦係数が0.2近くまで上昇することから,低地球軌道上のスペ-スストライボロジ-材料としては有効ではない。本原子状酸素発生装置を用いて固体潤滑剤表面への照射実験及びトライボロジ-解析をさらに押し進めることにより,特に酸化物系統の固体潤滑剤を中心としたスペ-ストライボロジ-設計の最適化に迫ることができるものと期待される。
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