研究概要 |
日本の代表的花崗岩の一つであり,岩石力学の研究対象として広く用いられている稲田花崗岩について,流体包有物の熱破壊に関する研究を行った結果,次のことが明らかになった. 1.稲田花崗岩の主要構成鉱物である石英および長石中には,多数の流体包有物が含まれている.流体包有物の平均の大きさは,石英では2.2μm,長石では1.9μmで,鉱物1mm^3あたり10^5個オ-ダ-の流体包有物が含まれている. 2.稲田花崗岩中の流体包有物は,室温では液相を主とする気液2相からなり,その均質化温度は,石英では85〜260℃,長石では150〜230℃である。流体包有物のデクレピテ-ション温度は,石英では170〜550℃,長石では230〜450℃である. 3.流体包有物の加熱により生じたマイクロクラックの長さは,一般に100μm以下であるが,まれに200μmに達するものもある.マイクロクラックの方向は,石英ではC軸に平行又は垂直のものが多く,長石ではへき開に沿って伸びるものが多い. 4.稲田花崗岩から単体分離した鉱物試料を用いてAE測定を行った結果,広い温度範囲でAEの発生が認められたが,そのピ-ク温度は,石英では380℃,長石では360℃にあることが明らかになった.これと花崗岩の円盤状試料のAEプロフィ-ルを比較した結果,石英のαーβ相転移温度以下では,流体包有物のデクレピテ-ションが花崗岩のAEプロフィ-ルに大きな役割を占めていることが明らかになった. 5.稲田花崗岩は,加熱後,冷却すると熱ひずみが残留する.残留熱ひずみ量は,加熱ピ-ク温度が高くなるにつれ,指数関数的に増加する.さらに,石英のαーβ相転移温度付近で急増する.これらの残留熱ひずみは,加熱によるマイクロクラックの発生とその開口によるものである.
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