研究概要 |
鋼におけるベイナイトのフェライト(α)成分の生成機構を明らかにすべく研究を行った.得られた主な成果を当初研究計画に対応させて以下に示す. [1.FeーNiーC合金のベイナイト変態の速度論的特徴] 炭素量の異なる3種のFeー9%Niー0.1〜0.3%C合金を用いて,TTT線図の作成および組織観察を行った.その結果,いずれの合金でも,TTT線図は1つのC曲線とはならず,フェライト+パ-ライト変態とベイナイト変態のそれぞれに対応する2つのC曲線で構成されることを明らかにした.これは,炭化物生成元素を含まない合金でも2重C曲線となることを初めて明瞭に示したもので,ベイナイト変態の機構が,せん断型であることを強く示唆するものである.さらに,ベイナイトの生成上限温度(Bs点)は,炭素量に依存せず,試料の組成から炭素を除いたFeーNi合金のMs点と対応することを見いだした. [2.Si含有鋼におけるベイナイトαの生成温度域] 亜共析組成のSeー2%Siー1%Mnー0.35%Cおよび共析組成のFeー2%Siー1%Mnー0.59%C合金を用いてAe_3点からMs点までの広い温度範囲での恒温変化組織を観察し,初析αと,Si含有鋼で生成する炭化物を伴わないベイナイトαとが同等の変態生成物であるか否かについて検討を行った.その結果,0.35%C亜共析鋼では,初析αとベイナイトαはそれぞれ独立した生成温度域を持ち,中間温度域では全面パ-ライト組織となることを見いだした.さらに,0.59%共析鋼においても,パ-ライト生成温度域よりも低温で炭化物を伴わないベイナイトαが生成したことから,ベイナイトαは初析αとは異なる変態機構によって生成することが明らかとなった. [3.加工効果オ-ステナイトからのベイナイト変態組織] Feー2%Siー1%Mnー0.59%C合金を用いて,加工効果オ-ステナイト(γ)からのベイナイト変態組織を観察し,ベイナイトαがマルテンサイトと同様に母相γの転位を受け継ぐか否かについて検討を行った.その結果,γの加工後にベイナイトαを生成させると,γ中に形成された転位セル組織がベイナイトαに受け継がれることが明らかとなった.一方,典型的な拡散型変態生成物であるパ-ライトでは,転位の受け継ぎは観察されなかった.これらの実験事実は,ベイナイト変態が,マルテンサイト変態と同じく,原子の連携運動により格子変化がおこるせん断型変態であることを示している.
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