研究概要 |
19世紀の中国の洋務運動期の西洋科学技術導入の問題については、本研究課題による研究に先立って中国の上海の復旦大学において予備調査を行ない,研究補助費が交付された第1年次においては,中国清末の上海・江南製造局翻訳館の科学技術文献を中心とする翻訳事業の中心人物ジョン・フライヤーが書いたこの事業の解説書『江南製造局翻訳事業記』(1880年)をカリフォルニア大学バークレィ校にて収集するとともに『江南製造局記』などのこの事業を知る上で重要な文献の収集に努めた。そうした資料収集・整理とともに,この研究課題にとって必須の資料の分析も並行的に開始した。 第2年次は,前年度に収集した資料について検討と分析を加えるとともに,特に重要な意味をもつ『江南製造局翻訳事業記』の英文原文を研究の中心において,その邦訳と訳注を加える作業に着手した。中国訳とも比較を行ない,邦訳に誤りが少なくなるよう努めた。1868年,中国近代化にとって重要とされた科学技術文献の翻訳が開始されて以降,科学技術書を中心とした98部(235冊)の西欧の原典が嚢編として訳出され,その一部は日本にももたらされた。この事業には清朝の高官の曽国藩や李鴻章が関与し,その進行に強い関心を示した。中国人では徐寿などの学者が欧来の宣教師に協力して訳出作業が進められ,後には日本の藤田豊八なども加わった。 本研究課題最終年度には,第2年次になって明らかにした事実や訳出作業を基礎として,西欧科学技術導入の際に重視され,中国近代化にとってその知識が重要であったということを明らかにするために,フライヤーおよび中国人協力者らによって実際に刊行された文献の一覧表を調べるなどの作業を行ない,その結果につき,冊子体の研究成果報告書に付した。
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