研究概要 |
富士山を中心としその周囲の富士五湖を含む地域の自然変動のシステムを理解するため,五湖の湖水位変動資料の収集,富士山麓地域での現地調査,主に山中湖の湖底ボーリングコアのテフラ分析,年代測定,古環境解析等を行って検討し,以下のような結果を得た. 1.富士五湖の長期にわたる水位及び降水量記録の解析から,水位変動のメカニズムを次の様に検討した. a.水位の平均年変化より精進湖,本栖湖,西湖は降雨時のピークより約3ヶ月遅れて水位のピークを迎える.従って湖沼から富士山頂までの流域に降った雨は3ヶ月にわたり連続して各湖沼に流出する. b.地下物浸量は,西湖,本栖湖.河口湖,精進湖の順に高い値を示す.ただし,山中湖は異なるメカニズムの下にあると考えられる. c.精進湖の長期間の観測資料からその安定水位を検討すると,湖水位が899.70mに達する迄の漏水量は平均30mm/day,これ以下に低下すると漏水量は急激に減少し,約10mm/dayとなる.原因として,湖水位上昇に伴う地下水の動水匂配の増加が流出量増加を促進する,地質条件の差などが考えられる. 2.富士山北麓・北東麓部でのテフラ層序を詳しく検討し,完新世の富士火山の活動史の中で山中湖等の富士五湖の成立時期を現定することができた. 3.山中湖で得たボーリングコアについて,花粉,珪藻,プラントオパール分析,テフラ分析,加速器を用いた14C年代測定を進め,最近2000〜2500年間の環境変遷について明らかにした.特に,山中湖の湖沼化の年代は1800年前と決定され,珪藻分析から1800年前のテフラの降下直後,水路の発達する湿地的環境から,現在と同じ水深のある湖の環境に変化した.またこの間の花粉組成,特に,スギ属花粉の増加・減少から平安期の温暖化や江戸時代の寒冷化等を含む過去2000年間の環境の推移が明らかとなった.
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