研究概要 |
本研究は飽和炭化水素(アルカン)のCーH結合を遷移金属錯体で直接活性化して官能基を導入し機能性物質を合成する新反応の開発を目的としており,2年間の研究により1)シクロアルカンとCOより脂肪酸の合成および2)メタンとCOより酢酸を合成する新反応の開発に成功した。 1.シクロアルカンとCOより脂肪酸の合成 シクロヘキサンをpd(OAc)_2/K_2S_2O_8/CF_3COOH系でオ-トクレ-ブ中80℃でCO(20気圧)と反応させるとシクロヘキサンカルボン酸が19,000%(pd基準)収率で生成した。しかし,シクロヘキサン基準の収率は2.1%と低い。そこで添加剤を用いて検討した結果,pd(OAc)_2にCu(OAc)_2を50当量添加すると収率は20,000%(Pd基準)でしかも基質基準の収率も8.8%と高い値が得られた。さらに基質をメチルー,tーブチルー,cisー1,3ージメチルー,transー1,4ージメチルーシクロヘキサンおよびアダマンタンに拡張して反応性を検討した結果,シクロアルカンのCーH結合の反応性は3級>2級>1級炭素の順に低下し,またCOOH基は全てエクアトリアル位に導入されることが明らかになった。重水素化シクロヘキサンを用いた同位体実験よりkH/kD=3が得られ,本反応の律速段階はアルカンCーH結合のパラジウムによる切断反応であることがわかった。以上の結果より本反応はPd(II)のCーH結合に対する親電子攻撃を経て進行すると考えられる。 2.メタンとCOより酢酸の一段階合成 上の反応をメタンに適用することによりメタンとCOより直接酢酸を合することに成功した。触媒はPd(OAc)_2,Pd(OCOEt)_2あるいはCuSO_4でもよく,メタンとCOを20〜40気圧の加圧下で反応させると酢酸が高収率で得られた。以上の反応はアルカンの熱的活性化を経る合成反応では最初のものであり,特にメタンとCOより酢酸を一段階で合成する反応は工業的にも画期的なものであり今後の発展が期待される。
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