研究概要 |
本研究は,「求核性の対イオンによる生長炭素カチオンの安定化」という新しい概念に基づき,広く一般のビニルモノマ-のリビングカチオン重合を可能にする対イオンおよび開始剤系を開発することを目的としたものである.2年間の研究成果は以下のように要約される. 1)ビニルエ-テルのリビングカチオン重合の新規開始剤系の開発 種々の対アニオンを持つプロトン酸を開始剤とし,種々の弱いルイス酸を活性化剤として組合せ,(1)ー(5)の一連の開始剤系によってビニルエ-テルのリビングカチオン重合が可能であることを見出した:(1)酢酸誘導体/塩化亜鉛,(2)安息香酸誘導体/塩化亜鉛,(3)ハロゲン化水素/ハロゲン化亜鉛,(4)ハロゲン化トリメチルシリル/ハロゲン化亜鉛(カルボニル化合物共存),(5)ヨウ化水素/金属アセチルアセトン錯体. これらの結果から,「求核性対イオンによる生長炭素カチオンの安定化」が,リビングカチオン重合の一般的な原理であることを確立した. 2)スチレンのリビングカチオン重合の開発 メタンスルホン酸/四塩化スズおよびスチレンの塩化水素付加体/四塩化スズ開始剤系により,塩化メチレン中,塩素アニオン塩の存在下にスチレンを重合すると,理想的なリビングポリマ-が生成することを見出した.この結果は,従来きわめて因難とされていた,スチレンなどの低反応性モノマ-のリビングカチオン重合の最初の例として重要である. 3)リビングカチオン重合における生長鎖の性質の分光学的解析 ビニルエ-テルとプロトン酸の付加体(生長末端モデル)と塩化亜鉛の混合物を核磁気共鳴分光法により直接観測し,以下の点をはじめて明らかにした。(1)生長末端は塩化亜鉛と相互作用して活性化される.(2)この相互作用は速い可逆過程である.(3)生長末端が活性化されてモノマ-と反応する際,イオン的な中間体を経て生長反応が起こる.
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