研究概要 |
イネ属における1年生と多年生の生理的な違いを明らかにするため,24時間日長・適温条件下でも1年以内に枯死する1年生的性質の強いO.glaberrimaの1系統W492と,適温条件さえ与えれば1年以上生存を続ける多年生的性質の強いO.sativaの1品種農林22号の出穂期以降の生育を,乾物の穂への集績,葉の老化,同化産物の転流経過の面から比較した。1990年は台風による被害が大きかったので1991年の結果だけを考察した。 乾物の穂への集積パタ-ンは初期に1年生の方がわずかに高い傾向はあったが,両品種ともほぼ同じであった。このことは乾物の穂への集績は登熟初期に1年生の方が高いという予備試験の結果をそのまま支持する結果ではなかった。そしてこれには1991年の秋期の特異な日射条件が関与していると考えられた。したがってこの点についてはさらに実験をくり返して確認する必要があると思われた。 葉のクロロフィル含量,クロロフィルメ-タ-のSPAD値,窒素含量で示された葉の老化は,明らかに1年生の方が早く,1年生と多年生の最も大きな違いであった。 植物体に取り込まれた ^<13>Cの挙動から,多年生では登熟の後期まで穂への転流が行なわれるのに対し,1年生では4週目以降は穂への転流割合が急速に低下したこと,さらに1年生では葉面積の急速な減少によって個体あたりの同化能力が急激に低下するために茎部に蓄積する程の同化が行なわれないのに対し,多年生では葉面積の減少程度が1年生に比べて小さいために,個体の同化能力が維持されていくらかの同化産物が茎部に蓄積されることが解った。 今後は今までに得られたW492(1年生)と農林22号(多年生)の違いが,1年生と多年生の違いとして一般化できるかどうかを多くの品種・系統を使って検討する必要があると考えている。
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