研究概要 |
移動多型,翅型多型をもつイネ害虫,イチモンジセセリ,及びヒメトビウンカを用いて,種内多型の生態学的属性と,多型の遺伝的背景について研究した。イチモンジセセリ成虫は年3世代繰り返すが,世代間に日長支配の多型があり,第2世代成虫が移動することを知られている。この研究で多型間の飛翔能力や産卵前期間,産卵数を比較したところ,第2世代以外に越冬世代成虫も移動性を有することを分かった。第1世代成虫には移動性は見られない。このことから越冬世代が春に北東へ,第2世代成虫が秋に南西方向へ往復移動する可能性を示された。ヒメトビウンカの翅型(長翅型,短翅型)の遺伝的背景を知るために翅型選抜した系統を作り,交配実験を行った。その結果,翅型は遺伝的に決まるが,メンデル型ではなくポリジ-ンによること,閾値形質を仮定した量的遺伝モデルに良く適合し,最少遺伝子座は2.07と推定された。選択と反応から推定した長翅型に関する実現遺伝率は0.36となった。ヒメトビウンカには雌,雄成虫共に体色変異がみられるがこの形質も遺伝的であることが明らかになった。但し,雌と雄の体色は相互に独立である。さらに体色は密度依存的に暗化すること,特殊な体色の組み合わせ選択によって,通常生じ難い短翅型が雌,雄共に高率に得られることから体色と翅型は相互に関連した形質である。ヒメトビウンカを短日,高温で飼育すると一部の個体の幼虫の発育が遅延する。この発育日長感受性も遺伝的であり,且つ密度依存的であった。さらに,日長感受性は翅型とも関連しており,長翅型で遅延個体の割合が高まる。これらの事実から翅型,体色,日長感受性には共通した遺伝機構があり,それは内分泌(幼若ホルモン)支配の遺伝機構ではないかと推測した。
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