研究概要 |
哺乳動物の中枢神経伝導路は,いったん形成された後は壊れることはあっても再生することはなく,ましてやその神経要素を取り替えたり補充したりして神経回路網を修復することは不可能と考えられてきた.本研究はラットにおいて脊髄伝導路が機能的意義をもった著明な再生を起こすこと,小脳や脊髄髄節の置換が可能であること,すなわち,神経回路網をシステムとして再構築することが可能であることを明らかにした. 1)ラットにおける脊髄切断後の上行性・下行性伝導路の再生:生後18日までのラットでは下部胸髄を完全に切断しても上行性・下行性伝導路の著明な再生の起こることをトレーサーの順行性・逆行性標識法により明らかにした.再生した伝導路は走行,終止ともに正常なものと区別し難いものであった.これらの動物の行動が全く正常なものと区別できないことから,再生した伝導路が機能的意義を有することは疑いを入れない. 2)新生ラットにおける小脳の置換:新生ラットの小脳を全部あるいは半側切除し,その空所に胎児ラットの二つあるいは一つの半側小脳を移植した.これは相同組織の相同部位への移植である.相同部位で生着した小脳は正常な小脳に匹敵するほど成長し,正常な小脳に較べて遜色のない小脳脚を形成して脳幹につながり,宿主の脳との間には正常な入出力を形成していた. 3)新生ラットにおける脊髄髄節の置換:新生ラットの下部胸髄の1.5〜2髄節を完全に取り除き,その空所に胎児ラットの相同部位を含む脊髄髄節を移植した.移植髄節の生着が成功した例では,移植片によって脊髄は完全につながっており,トレーサーの順行性・逆行性標識法で検索してみると上位脳と腰膨大の間には移植髄節を通って錐体路や赤核脊髄路を含む強力な神経結合ができていることが確認された.これらの動物は正常ラットと同様に前肢と後肢を協調させて歩き,走り,金網を登り,排尿排便の障害も認められなかった.
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