研究概要 |
細胞質に局在するブタ・アスパラギン酸アミノ基転移酵素(cGOT)を組換DNA手法により、目標とするアミノ酸残基を系統的に他のアミノ酸に置換した結果もたらされる酵素の構造・機能の変化を解析し、酵素触媒におけるアミノ酸側鎖の動的な役割、特に、本酵素が示す"induced fit"の分子機構を解明することを目的とした。アミノ酸置換の計画に従い、アミノ基末端セグメント領域内のVal15をAsp,Asnに、Leul6をProに置換した変異酵素を作成し、触媒活性の低下を観察した。熱低抗性、Protease#401限定分解に対する感受性について解析したところ、これらの変異酵素は著しく抵抗性を増していることが明かとなった。この実験結果は、ただ一つのアミノ酸置換によって酵素蛋白の構造安定性が数十倍増加するが、その結果、アミノ基末端セグメントの構造可塑性が失われ、触媒作用に重大な変化がひきおこされたことを示している。Phel8をHis,Tyr,Trpに置換した変異酵素を作成し、これらの新たに導入したアミノ酸側鎖の分光学的リポ-タ-グル-プとしての有効性を検討した。His置換体をNMRにて観察したところ、新たに導入したHisに由来するピ-クが酵素構造変化を指示するプル-ブとなることが明かとなった。Val37,Gly38位のアミノ酸をAlaやSerに置換した変異酵素を作成した。触媒機能の解析を行い、4種の基質、および基質アナログとの反応をストップド・フロ-法により解析し、基質の結合過程と律速段階の動力学的パラメ-タ-を得た。その結果、G38の変異は触媒活性に著明な影響を及ぼすことが明かとなった。米国・アイオワ大Arnone研究室に変異酵素試料(V37A,G38S)を送付し、X線による構造解析を進めている。生成物の活性域からの排出に重要な役割を演じると推定される、Arg292ーGlu141イオン・ペアのアミノ酸置換を行い、反応動力学検討を加えた。
|