研究概要 |
神経細胞のマーカー蛋白とグリア細胞のマーカー蛋白および神経伝達物質である脳内アミン類を指標として、有機溶剤中毒による中枢神経障害の機序を明らかにし、中毒の早期診断や衛生基準設定の基礎資料を得る目的で実験を行った。その成果、1)ラットをトルエン300,1000,3000ppmに1日8時間、1週6日、2週間暴露した悪急性実験では、脳内の神経細胞のマーカー蛋白(γ-エノラーゼ)とグリア細胞のマーカー蛋白(α-エノラーゼ、β-S100蛋白、クレアチンキナーゼ-B)を測定し、小脳でα-エノラーゼとγ-エノラーゼが増加し、脳幹部ではβ-S100蛋白が増加した。2)ラットをトルエン100,300,1000ppmに1日8時間、1週6日、16週間暴露した慢性実験では、小脳でグリア細胞のマーカー蛋白が増加し、量依存的な変化を示した。脳幹部と脊髄ではβ-S100蛋白が量依存的に増加した。神経細胞のマーカー蛋白はいずれの部位でも量依存的な変化を示さなかった。3)ラットをn-ヘキサン2000ppmに1日12時間、1週6日、24週間曝露した慢性性実験では、坐骨神経遠位部でγ-エノラーゼ、γ-エノラーゼ、β-S100蛋白が有意に減少したが、中枢神経系では有意な変化は認められなかった。4)ラットをメチルエチルケトン(MEK)200,630,2000ppm,1日8時間、1週6日、2週間暴露した悪急性実験では、β-S100蛋白が脊髄で量依存的に有意に増加した。これらの結果は神経マーカー蛋白が有機溶剤の中枢神経系への影響のよい指標になること、トルエンとMEKの曝露が中枢神経系のグリオーシスを生じる可能性があることを示唆した。5)ラットにトルエン80,250,800mg/kg及びメタアンフェタミン1mg/kgを腹腔内投与して、マイクロダイアリス法を用いて脳内線条体のドーパミンおよびその代謝物のDOPACとHVAを測定した。同時にラットの行動量を測定した。その結果、メタアンフェタミン1mg/kg群は行動量と線条体のドーパミンは有意に増加しその代謝物は有意に減少した。しかし,トルエン800mg/kg群では行動量は増加したがドーパミンおよびその代謝物は変化が認められなかった。この結果から、トルエンの中枢神経系への作用機序はメタアンフェタミンとは異なり、脳内の他の系に作用している可能性を示唆した。
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