研究概要 |
胎児性ヘモグロビン(HbF)はα鎖とγ鎖で構成されており,γ鎖のアミノ酸数は146個である。γ鎖の抗原決定部位は未だ確定されておらず、約73%のホモロジ-を有するβ鎖との抗原性の異同やγ鎖独自の抗原部位を明らかにすることは有用と考えられる。本実験ではHbFのγ鎖の一次構造に従い,アミノ酸数20個のペプタイドを合成し,そのペプタイドと抗体との反応性より抗原活性の有無を考察した。合成した各ペプタイドの20個のアミノ酸のうち,C末端側6個は次のペプタイドのN末端側6個とオ-バ-ラッピングさせてある。従って,この条件で合成させるペプタイド数は10個ということになる。合成したペプタイドには,γ鎖のN末端側のものより順次Pepー1,Pepー2……Pepー10の番号を符した。ペプタイドの合成と併行して,成人ヘモグロビン(HbA)と,臍帯血よりHbFを精製し,これらに対する抗体を家兎で作成した。各ペプタイドの抗体との反応性の検討に使用した抗血清は前述の自家製抗HbA,抗HbF血清(IgGフラクション)の他に,市販のモノクロナ-ル抗HbA,抗Hbα鎖抗Hbβ鎖抗体の計5種である。抗体とペプタイドの反応は,プレ-トを用いるELISA法と膜を用いるDotーELISA法によった。その結果,DotーELISA法によって,家兎抗HbF血清とは,Pepー1,Pepー2,Pepー3,Pepー6およびPepー9に抗原活性が認められた。またモノクロナ-ル抗α鎖およびβ鎖抗体とはPepー5,Pepー9,Pepー10に活性が認められ,モノクロナ-ル抗HbA抗体とはPepー5とPepー10に活性が認められた。プレ-トを用いた方法での検査では,ペプタイドのプレ-トの固着が不完全で再現性のある成績は得られなかった。以上の成績からすると,γ鎖の抗原活性部位は概ね3ヶ所と考えられ,β鎖とのホモロジ-を考慮すると,Pepー6がγ鎖に特異的なエピト-プであることが示唆された。このペプタイドに対するモノクロナ-ル抗体の作成は現在進行中である。
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