研究概要 |
我々は既に視床下部と免疫系の関連に着目してラット視床下部諸核の破壊実験を行い,とりわけ前視床下部(AHy)破壊でリンパ球幼弱化反応が低下し,皮下腫瘍の生長が促進される事を示してきた。今回は,AHyとリンパ球機能あるいは機能分化との関連を調べる目的で,AHy破壊ラットの末梢血リンパ球(PBL),胸腺細胞(THY),脾細胞(SPC)のサブセットならびにNK活性を検討した。一方,我々は,免疫学的記憶の成立にも脳が関与している可能性を指摘してきたが,AHyとの関連の有無を検索する目的で,AHy破壊が免疫学的記憶に及ぼす影響も検討した。その結果,AHy破壊後2週間目にTHYでT cell receptor(TCR)αβ陽性細胞の比率が低下し,PBL,SPCではCD8+T細胞の比率の上昇とCD4/CD8比の低下が示され,SPCのNK活性はAHy破壊後1週間目で低下する事がわかった。ただし,NK活性は2週間目にはコントロール値に回復する事も判明した。免疫学的記憶に関しては,同種異系腫瘍であるRBL-1で皮下免疫したFisherラットの腹腔内にRBL-1細胞を投与して4日後に回収すると,本来陰性のMHCクラスII抗原の発現が約90%に増強されるが,皮下免疫後のラットのAHyを破壊した後に,腹腔内投与して回収したRBL-1細胞では,陽性率は40%台と低下する事がわかった。以上より,ラットAHyは胸腺レベルでのT細胞の成熟分化,末梢レベルでの細胞性免疫能の機能制御ならびにTCRとMHC抗原分子を介する抗原認識機構に影響を及ぼしている事が推察された。免疫系を制御する神経系由来の因子として様々なneurotransmitterやhormoneが指摘されているが,AHyを介する免疫系の制御はにどのような因子が関与しているのかはいまだ不明であり,今後の検討を要する課題である。
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