研究概要 |
臨床研究としては,脳血管障害患者の排尿に関する自覚症状および下部尿路機能障害と,CTおよびMRIで評価した脳内病変部位との関係を検討し,以下の結論に至った.(1)大きな両側性病変例に尿失禁の頻度が高い.(2)小さな梗塞(lacuna)が多発する多発性小窩状態にも切迫性尿失禁が多い.(3)前頭葉や内包後脚あるいは大脳基底核に病変が及んでいる例に過活動性膀胱が多く,切迫性尿失禁の頻度が高い.(4)前頭葉や内包後脚病変例は過活動性で不全尿道が多い(50-55%).(5)被殻病変例は過活動性膀胱で正常尿道が多い(60-63%).(6)尿失禁の程度は基底核に限局した病変例より前頭葉や内包後脚の病変例が強い.(7)脳幹部(橋)背側に両側性に病変を有する例に低活動性膀胱で排尿困難が多い(3/3例).(8)脳幹部でも一側性や腹側の病変例は,正常膀胱(3/7例)あるいは過活動性膀胱が多い(3/7例). 実験的研究としては,脳幹部排尿中枢による内尿道括約筋支配について検討を行った.除脳イヌとネコで,橋排尿中枢の電気刺激により膀胱収縮と外尿道括約筋弛緩が誘発されることを確認した後,pancurinium bromide lmg/kg i.v.し,外尿道括約筋の活動の影響を除いた状態で内尿道括約筋の内圧反応を観察した.イヌもネコも,1-3秒間の電気刺激(0.2msc,50Hz,10-50μA)で膀胱収縮にともない内尿道括約筋部内圧は下降した.下腹神経と交感神経幹の切断を行うと,内尿道括約筋部内圧は減弱し電気刺激による圧下降巾も小さくなったが,phenylephrine 0.1mg/kg i.v.で内尿道括約筋を収縮させると,電気刺激による内圧下降は顕著になった.この内圧下降反応は,骨盤神経切断により消失した.橋排尿中枢は膀胱と外尿道括約筋の活動だけでなく,内尿道括約筋の活動をも調節しており,内括約筋弛緩は下腹神経と骨盤神経の両方を経由する経路によりもたらされることが分かった.
|