研究概要 |
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を含め4種類の糖蛋白ホルモン,黄体刺激ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),甲状腺刺激ホルモン(TSH)はいずれもα,β鎖のサブユニットよりなり,α鎖はすべてに共通で同一遺伝子からコ-ドされ,各々の生理活性はβ鎖に由来している。β鎖はアミノ酸配列,及び遺伝子レベルにおけるDNA塩基配列において高い相同性を示し,特にN末端より約30アミノ酸の部位にはCAGY領域と呼ばれるCysーAlaーGlyーTyrの4アミノ酸配列の完全な保存が認められ,これらのホルモンにとって重要な構成部位であることが予測される。我々はすでに遺伝子工学の手法を用いて,CAGY領域に点突然変化を起こしたhCGβ鎖をsiteーdirected mutagenesisの手法を用いて作成し,4種のアミノ酸の中でM1(Ala→Ser),M2(Gly→Arg),M3(Gly→Asp)と変異させることに成功した。作成した3種の変異hCGβcDNAと無変異のネイティブなhCGβcDNA,α鎖のcDNAに対応するmRNAをin vitro transcriptionによって合成,精製した。これらのα,β鎖のmRNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に微量注入してin vitroで蛋白を合成した。その結果,M1変異から合成された変異蛋白の免疫応状性はRIAシステム測定上,正常β鎖と同程度であったのに対して,M2,M3変異のmRNAの注入では無変異蛋白に比して約10%にまで低下することをみいだした。これはCAGY領域のグリシンの変異がα鎖,β鎖の会合に重要な部位であることを示している(J.Mol.Endocrinol.1990,5,pp97)。 我々はさらにCAGY領域の重要性を検討するため,これらの糖蛋白ホルモンの立体構造を解析して,これらそれぞれのβ鎖のCAGY領域と会合するα鎖のアミノ酸配列に注目した。立体構造上,その候補領域として ^<28>Cysー ^<29>Metー ^<30>Glyー ^<31>Cysー ^<32>Cysー ^<33>Pheー ^<34>Serー ^<35>Arg ー^<36>Alaー ^<37>Tyrを設定した。本年度の点突然変異作成には,それぞれ点突然変異塩基を含む3'と5'合成ヌクレオチドプライマ-を作成し,polymerase chain rection(PCR)法により無変異cDNAを鋳型にして変異cDNA断片を増幅,合成した。合成された変異cDNA断片は両端を制限酵素で切断して粘着末端とし,無変異cDNA断片の相補的な部分と置換することで,発現可能な変異cDNAとした。これによって ^<28>Cys→Tyr, ^<29>Met→Arg, ^<30>Gly→Arg, ^<30>Gly→Ala, ^<30>Gly→Asp, ^<37>Tyr→Aspの6種類のα鎖の変異cDNAを作成することに成功した。これらのcDNAをin vitro transcripton法でmRNAを合成,精製して現在アフリカツメガエルの卵母細胞にwild typeのhCGβ鎖のmRNAとともに微量注入し,分泌されたhCGの生化学的性質を解析中である。
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