研究概要 |
培養ラット耳下腺explantをイソプロテレノール(IPR)で刺激すると、4種類(17K,20K,31K,32K)の、またカルバコール(CC)では2種類(31K,32K)の蛋白質のセリン/スレオニン残基のリン酸化が促進され、アミラーゼ分泌のみならずオルニチン脱炭酸酵素(ODC)やDNA合成の誘導が認められる。種々の阻害剤のうち、モネンシンはIPRによるODC誘導と4種の蛋白質のリン酸化のみを抑制し、アミラーゼ分泌やCCの作用には全く影響を及ぼさなかった。一方、ポリミキシンBはCCによるODC誘導と2種の蛋白質のリン酸化のみを選択的に阻害した。経時変化の結果と合せ、これらのリン酸化はアミラーゼ分泌ではなくODC誘導と関連することが示唆された。ODC誘導機構についてさらに検討するため、細胞増殖との関連性が深いproto-oncogeneの発現に及ぼす唾液分泌促進剤の影響について、in vivo(IPR)、並びにin vitro(IPR.CC.メトキサミン(MTX))でそれらの定常mRNAレベルに対する効果を解析した。in vivo,in vitro共に刺激後30分でc-fosが、60分でc-jun,C-myc,c-src mRNAレベルが最大となる一過性のピークを示した。またこれらの結果はアミラーゼ分泌促進能、ODC誘導能にほぼ比例してIPR>CC>MTXの順であった。さらに非受容体型チロシンキナーゼ群に属するc-srcのmRNA量がODC遺伝子の発現に先行して上昇することから、この情報伝達におけるチロシンリン酸化の役割を検討した。ハービマイシンA、ゲニスティン、ラベンダスチンA等5種の構造の異なるチロシンキナーゼ阻害剤はすべて上記3種のアゴニストによるODC誘導を抑制したが、アミラーゼ分泌を逆に促進した。一方、チロシンホスファターゼ阻害剤Na_3VO_4(Va)の単独処理でODC活性の上昇が見られ、この上昇はハービマイシンAで抑制された。また、アゴニストと併用すると、MTXまたは低濃度のIPRによるODC誘導はVaで促進され、アミラーゼ分泌は逆に抑制された。以上の結果から、唾液分泌促進剤による培養ラット耳下腺のODC誘導に、耳下腺蛋白質のセリン/スレオニンおよびチロシンのリン酸化が必要であるが、アミラーゼ分泌に対しては、チロシンリン酸化が抑制的に作用すると考えられ、ODC誘導と分泌促進の機構が異なると推察される。
|