研究概要 |
乳児における吸啜と嚥下第1相,小児・成人における咀嚼と嚥下第1相では舌が主体の一つをなす複雑な運動が展開されている。今回,超音波断層法を応用することによって,このような吸啜・咀嚼・嚥下時の舌の動きや形態変化,舌と硬・軟口蓋との関係における動きの特徴などについて,各分担研究において主として以下のような知見が得られた。 1.乳児の哺乳運動の解析(1)チルトタイプのプローブを使用し,正中下顎下をエコーウィンドーとする方法が最も適している。(2)母乳,人工乳首いずれの場合にも乳首の先端部は硬・軟口蓋境界部に達している。(3)母乳でも人工乳首でも舌の動きは蠕動様運動であり,差はない。(4)舌根部が下がって軟口蓋との間に空隙ができるときに射乳がみられる。2.小児の咀嚼・嚥下運動の解析(1)実用的正中矢状断エコー像は側方下顎下縁部をエコーウィンドーとしコンベックス型プローブを使うことによって得られた(小児および成人)。(2)舌の嚥下時の基本的動きは蠕動様運動であるが,食塊が咽頭に送り込まれる直前には舌根部の上方が前下方に押し開かれる。(3)前額断では食塊形成時に舌中央部に凹陥ができる。(4)咀嚼時矢状断では舌根上方部の行下方移動がみられる。(5)前額断では作業側の舌縁が低くなる。3.成人の嚥下運動の解析(1)正中矢状断エコー像では嚥下第1相を4期に区分して観察できることが分かった。(2)第3期(食塊が咽頭に送り込まれる直前)に舌根部が前下方に凹む動きが特徴的であったが,10例中1例では欠如していた。4.障害児の嚥下運動の解析(1)正中矢状断エコー像の特徴から,「逆嚥下型」と「押しつけ不全型」の2型に分類できた。(2)食品増粘剤を使用した試験結果から,この方法が摂食機能障害者の舌を中心とした動きの診断と訓練経過観察に応用が可能なことが示唆された。
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