研究概要 |
脳内自己刺激現象の発現と維持に関わる神経伝達物質機序の解明を試みた。脳刺激報酬に関与する神経伝達物質の候補としてはド-パミンが最もよく知られている。そこで,まずラットが自己刺激行動を行っている時のド-パミンの変化を脳微小透析法を用いて検索した。自己刺激部位は内側前脳束,透析部位は側坐核とした。ド-パミンとその代謝物質(DOPACとHVA)の細胞外濃度の変化は,自己刺激行動を遂行する前1時間,遂行中1時間および遂行後2時間の計4時間に亘って観察した。その結果,自己刺激行動に伴って側坐核ではド-パミン,DOPACそしてHVAの時間順序で各々が最大40ー60%増加した。さらに,ド-パミンは取り込み阻害剤(Nomifensine)あるいはモノアミン酸化酵素阻害剤(Clorgyline)の前処置によってより著明な増加パタ-ンを示した。なお,パソコンに記憶しておいた自己刺激反応パタ-ンを用いて,同じラットの同じ部位を強制的に刺激した場合にも,自己刺激学習を自発的に行った場合と類似したド-パミンの増加パタ-ンが認められた。以上の結果から,内側前脳束の自己刺激行動に伴って,側坐核ド-パミンニュ-ロンの終末では遊離,再取り込みの増加およびニュ-ロン内代謝の亢進が生ずることが示唆された。つぎに,このような自己刺激行動に伴うド-パミンニュ-ロン活動の部位差について検索した。その結果,側坐核と前頭葉内側部のド-パミンは自己刺激に伴って同様の増加パタ-ンを示したが,線条体のド-パミンの増加はこれらの領域と比べると有意に低いことが示された。したがって,自己刺激行動に伴って中脳ー前頭葉ー辺縁ド-パミンシステムが選択的に賦活化されることが示唆された。最後に,オピオイドアゴニスト投与実験から,オピオイド物質は中脳ー辺縁ド-パミンニュ-ロンに対してその起始部(腹側被蓋野)と終末部(側坐核)において異なる修飾作用を有する可能性が示唆された。
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