研究概要 |
大脳辺縁系の海馬で観察されるシナプス伝達の可塑性(長期増強)は,記憶・学習に関連した現象として注目されている。海馬でも時に,歯状回とCA3領域と錐体細胞とを連絡する苔状線維(mossy fiber)ーCA3系のシナプスの長期増強は,低濃度の脳機能改善薬で促進されることが明らかにされており,このシナプスは,これら薬物に共通する作用点として注目される.従って,この部位における脳機能改善薬の作用機序を明らかにする目的で本研究を行い次の点を明らかにした. 1.脳機能改善薬の一つであるbifemelaneは,モルモット海馬の苔状線維終末からの脱分極刺激によるグルタミン酸遊離量を増加させ,この作用機序の一つとして苔状線維終末におけるCキナ-ゼのトランスロケ-ション(活性化)が関与している可能性を明らかにした.海馬における苔状線維以外の終末のシナプトソ-ム画分からのグルタミン酸遊離とCキナ-ゼの細胞下分布に対してbifemelaneは影響を及ぼさなかった.苔状線維終末に対するbifemelaneのこの様な選択的作用が,苔状線維ーCA3系の長期増強に対する促進作用の機序の一つであろうと考えられた. 2.モルモット海馬に[ ^3H]bifemelaneの特異的結合部位が存在し,その分布密度はCA3がCA1より高かった.従って,bifemelaneの苔状線維ーCA3系に対する選択的作用は,その作用点の分布の不均一性によるものと考えられる.Imipramine存在下で[ ^3H]bifemelaneの低親和性結合が消失し高親和性結合のみが観察されたので,モノアミン取り込み部位とは異なったbifemelaneの高親和性結合部位を存在することが明らかとなった.海馬における[ ^3H]bifemelane結合は,調べた範囲における他の脳機能改善薬では抑制されなかった.
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