研究概要 |
卵巣顆粒膜細胞は、卵母細胞の発育に伴い、脳下垂体ホルモンの影響を受け、FSHやLHに対する受容体の発現,ステロイドホルモン産生能などの諸性質を獲得しつつ、増殖,分化を繰り返している。すなわち、この細胞は卵の成熟に必要な卵胞内の環境を整えると云う重要な役割を担っている。我々はこれまでに、アクチビンがラット顆粒膜細胞の分化を顕著に促進することを見いだしたのを機に、顆粒膜細胞上のアクチビン受容体の同定,アクチビン結合タンパク質の単離に成功してきた。本課題では、アクチビンの多様な作用を理解するために、そのシグナル伝達調節機構に焦点を当てて研究の展開を図り次のような成果を得た。 (1)アクチビン結合タンパク質(ABP)はアクチビンと化学量論的に結合し不活性複合体を形成することにより、アクチビンの様々な作用を抑制した。(2)ABPは、顆粒膜細胞上のプロテオグリカンのヘパラン硫酸残基に特異的に接着した。(3)ブタ卵巣から精製取得したABP標品は少なくとも6種類のアイソホ-ムの混合物であり、それぞれの違いは、糖鎖の有無,C末端領域の欠落の有無にあることを明らかにした。各分子種のアクチビン結合能には殆んど差は認められなかったが、C末端欠落分子種はより高い細胞接着性を示した。(4)卵胞液中では、ABPは3種類のアクチビン(A,AB,B)と複合体を形成して存在していた。ABPーアクチビン複合体を逆相HPLCで精製することにより,アクチビンーBを初めて単離した。(6)アクチビンーBは、いろいろなアッセイ系において、他のアクチビンに比べ極めて弱い活性しか示さなかったが、カエル初期胚での中胚葉誘導活性は他のアクチビン同様、極めて強かった。(7)大量に培養したマウスEC細胞から、初めて、アクチビン受容体タンパク質を単離した。以上,ABPが,アクチビンのシグナル伝達を細胞表面で調節している可能性を示す知見を得た。
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