研究概要 |
1.ヒト精子染色体に及ぼす放射線の影響:種々の線量(6.4-423.1cGy)の ^<137>Cs-γ線をin vitroでヒト精子に照射し、構造的染色体異常誘発の線量効果関係を調査した。合計44名の男性から得られた1,3909精子(照射群,6,977精子;対照群,6,932精子)が染色体分析された。構造的染色体異常をもつ精子の出現率は低線量域(6.4-109.3cGy)では線量に伴って直線的に増加したが、高線量域(423.1cGy)まで含めるとその増加は二次曲線的であった。誘発された異常の中で、切断型異常は交換型異常の5-10倍高かった。また、線量に伴う増加は前者では直線的、後者では二次曲線的であった。 2.ヒト精子染色体に及ぼす制癌剤の影響:ブレオマイシン(BM)、サイクロフォスファミド(CP)、ダウノマイシン(DM)、メタンスルフォン酸メチル(MMS)、マイトマイシンC(MMC)、トリエチレンメラミン(TEM)の6種の制癌剤について精子染色体に及ぼす影響を調査した。凍結保存ウシ精子を用いた予備実験により薬品の処理濃度、時間を決定した後、ヒト精子で本実験を行った(染色体分析精子数:薬品処理群、650精子;対照群、728精子)。染色体異常をもつ精子の出現率はBM(50μg/ml,90min)群、24.3%;DM(0.1μg/ml,90min)群、47.3%;MMS(100μg/ml,120min)群、54.1%;TEM(0.1μg/ml,120min)群、50.7%;TEM(1.0μg/ml,120min)群、91.8%で、対照群より有意に高かった。一方、CP(1-1000μg/ml,120min)群およびMMC(0.1-100μg/ml,120min)群では、培養体細胞で異常誘発が認められている10-100倍の濃度でも異常の誘発は認められなかった。 3.ヒト精子染色体異常の自然発生率:正常男性22名から得た4,579精子を染色体分析した。異数性精子の出現率は平均1.3±0.6%で、高数性の頻度(0.6±0.4%)と低数性の頻度(0.7±0.5%)はほぼ等しかった。構造異常の出現率は15.1±4.1%で、異常精子の出現率には大きな個人差(7.0-24.8%)が認められた。観察された構造異常は出現頻度の高い順に切断、染色体断片、交換、ギャップそして欠失であった。 4.凍結保存ヒト精子の染色体分析法の開発:5種のヒト精子凍結保存液、HSP液、修正HSP液、KS-II液、AC液およびTYB液で保存した精子で染色体分析を試みた。凍結・解凍後の精子生存率には大きな個人差がみられた。比較的高い精子耐凍性をもつ個体についてみると、HSP液、修正HSP液およびAC液を用いた場合の解凍精子生存率は10-40%と低いのに対して、KS-II液およびTYB液の場合の生存率はそれぞれ平均50-70%および50-60%で、後2者の成績が良好であった。しかし、その後の受精能獲得処理の間に相当数の精子が死亡し、ハムスター卵への受精率の低いケースが多かった。今後、さらに改良が必要である。
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