研究概要 |
水溶液中にppbの濃度で溶存している金属イオンを捕集するために有効な材料はキレート形成基を有する樹脂である.本研究では,精密濾過用の中空糸状多孔声ポリエチレン膜に,放射線を利用して,キレート形成基を導入可能な反応性モノマーをグラフト(接木)重合後,変換反応によりキレート中空糸膜を合成した.したがって,この膜は微量イオン捕集と濾過という二つの機能を備えた新しい分離機能材料であり,超純水製造,バイオ生産物精製など各種の分離精製プロセスに利用できる. 本研究では,エポキシ基を有するビニルモノマーであるメタクリル酸グリシジルを反応性モノマーとして用い,キレート形成基としてイミノジ酢酸基(-N(CH_2COOH)_2を選択した.この複合機能膜に要求される条件は,基材膜の透水性能を維持しながら,高いキレート形成基密度をもつことである.また,この膜が実用化されるには,グラフト重合反応装置を設計して,機能膜を均一に,速く,低コストで製造する手法を確立しなければならない.本研究では,(1)キレート形成基を有する複合機能膜の合成とその最適化,(2)複合機能膜製造装置の反応工学的解析,および(3)複合機能膜の実プロセスへの応用の検討という三つの研究をおこなった。本研究成果に基づいて,(1)放射線グラフト重合によって表面を親水化する方法は実用化され,膜が市販されている.また,(2)キレート多孔性膜は,加圧水型原子力発電所の冷却水系でのコバルトイオン捕集に試験採用されることになった.
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