研究概要 |
前白血病状態を解明すべく,持続性リンパ球増多症(以下PL)を実験的に作出せしめ,その病理像についてウイルス学的,免疫病理学的,電子顕微鏡学的ならびに病理組識学的に検討した。成績は次の通り要約される。 実験方法:ドナ-牛は,2Xでウシ白血病ウイルス(BLV)抗体陽性,リンパ球数13,300個/μlのPL牛を用いた。実験には7〜8ヶ月令の3頭の子牛(A,B,C)にそれぞれ10^<10.3>,10^9,10^<9.6>個のリンパ球を静脈内に接種した(II代実験)。さらにAをドナ-(BLV抗体陽性,リンパ球数14,868個/μl)として3頭の子牛(a,b,c)にそれぞれ10^<9.1>,10^<9.1>および10^<8.8>個のリンパ球を静脈内接種した(III代実験)。なおIV代実験として,PLを示しているaをドナ-として2頭の子牛に接種し観察中である。これら実験牛は経時的に血液性状,ウイルス抗体価および病理解剖による組織変化を検討した。 実験成績:(1)接種後5〜8ヶ月で,II代実験例3頭中2頭,III代実験3頭中3頭,IV代実験の2頭にPLが誘発された。(2)全例共通的に末梢リンパ球は,1〜2週目よりTリンパ球(CD_4,CD_8)は減少し,それに反して,1gG陽性のBリンパ球が増加し,明らかなT/Bリンパ球比の逆転現象が認められた。(3)それらPL牛の末梢リンパ球は24時間短期培養後の電子顕微鏡観察で多数のウイルス粒子が認められた。また抗BLV血清による蛍光抗体法では細胞質内にBLV抗原が検出された。(4)6〜9ヶ月目に病理解剖されたPL牛3頭のリンパ節リンパ濾胞は大型化し,その構成細胞には異形性が指摘された。それら異形性細胞は,時折抗腫瘍関連血清(CEBLー2)を用いた免疫組織化学で陽性を示した。 結論:ウシ白血病ウイルス感染持続性リンパ球増多症は前白血病状態と見做される。即ち,持続性リンパ球増多症牛の体内には既に腫瘍化の始動が行われていると解される。ウシ白血病の発癌機序の解明には持続性リンパ球増多症のより発展的研究が重要な鍵となると思われる。
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