研究概要 |
平成3年6月に,今年度分の補助金の交付を受け,直ちに実験を開始した。 はじめに,解剖針としての先端器具を当講座で開発した炭素含侵タングステン線を用いて,これを電解研磨して作製した。同時に,東北大学金属材料研究所の助言と,東レ株式会社,日本カ-ボン株式会社研究所より炭素線維および炭化ケイ素線維の供給を受け,本研究の主題である複合材料による線材の試作に着手した。 これらの線維を線材にまとめるための金属は,取扱い易さの点で,純銅,鉛,錫,亜鉛,アルミニウム等の純金属を当初用いたが,溶融金属の潤れの点,硬化後の硬さ,強靭さ,電解研磨の容易さの点で,満足すべきものは得られなかった。そこで,合金を使うことを考え,上記各金属のうち,物性に優れ,合金の母金属として頻繁に用いられる銅を主体とした合金を選択した。多種多様な銅合金のうち,機械的特性が良好であるといわれるベリリウム銅を採用した。ベリリウム銅は融点が900℃前後と扱い易く,加工後は弾性に富み,銅が主体であるので導電性,エッチング性も申し分なかった。しかし,溶融時の線維に対する潤れの問題だけは,いかなる金属および合金を用いても解決できなかった。線維基材料の表面加工が,予め必要と考えられる。 上記のようにして,線維材料を細い束にして溶融金属の中に浸漬し,慎重に引き上げることによって,直径約0.5mmの細い線材を作製した。この線材を折って,その断端を電解研磨すると,細い線維が露出し,鋭い針先が得られた。この針先の先端太さは使用した原線維の直径に依存しほゞ10μm前後であった。これは,拡大の解剖には使えないが,弱拡大のレベルの解剖には,丈夫で使い易い先端器具として応用できることが,明らかになった。
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