研究概要 |
平成2年以来3ヶ年にわたり鎌倉浄土教と中古天台との交渉について研究してきた。この研究によって明らかになった点は以下の諸項目である。第一は法然自身の天台学の師と中古天台文献の読書範囲についてである。師の皇円・叡空をめぐる中古天台各流派とその諸文献について検討を加えた。第二は法然が閲覧可能と推定できる,代表的な本覚思想文献として『本理大綱集』・『天台法華宗牛頭法門要纂』・『本覚讃釈』・『真如観』・『三十四箇事書』の五撰述書をとりあげ,その思想の特徴を解明し,法然への影響の有無を検討した。第三は法然門下の浄土教学を本覚思想の影響を受けたグループと本覚思想批判を堅持したグループとに分け,後者の代表として聖光・良忠の鎮西義をとりあげた。そこで鎮西義の浄土教学的特徴を解明するために聖光・良忠に対する宝地房証真の影響も検討し,幻の書といわれる『観経疏私記』(証真撰)と良忠撰述の『観経疏』三釈書との比較検討をおこなった、第四は前述の法然門下の二つのグループの前者,本覚思想の影響を受けたグループの代表として隆寛と証空,とくにまず隆寛をとりあげ,隆寛の浄土教学と中古天台の東陽流・椙生流との関係を考究した。第五は隆寛と同じく本覚思想の影響を受けた人師として,証空をとりあげ,証空と中古天台大原流とのかかわりをさぐり,その上で証空の全著作に対する天台宗の教学,すなわち顕教と台密との両面からの影響を考究した。証空の初期の著書『観経疏自筆鈔』には台密の影響が強くみられ,次第に本覚思想の影響が深まり,最終的には『観経疏積学鈔』においてその影響は結実したと考えられる。
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