報告者の従来の研究によって、カクレキリシタンの特質は、(1)シンクレティズム(2)祖先崇拝(3)現世利益(4)儀礼中心主義にあるということはほぼ明らかにされた。初期の調査結果により、祖先崇拝がカクレキリシタンの信仰基層をなすものと思われたが、調査を重ねるにつれ、さらにその深層にはアニミズムといってもよいような霊魂観念が存在し、あらゆる日常生活にまつわる諸現象が霊の働きによるものであるという信仰が生きているということが明確になってきた。 それらの諸霊とのかかわりも、その積極的的側面よりも消極的側面、すなわちタタリを恐れ、いかにそのタタリを払い、清め、鎮め、予防するかというほうに比重があるように思われる。現在のカクレキリシタンにあっては、300有余年にわたる潜伏時代をへて、16、7世紀に伝えられたカトリックのさまざまな信心用具そのものが、一種の呪術的神性性を帯び、キリストやマリヤといった本来の神はその重要性を失い、それらの用具そのものが神にまで高められて、一種のフェティシズム的な性格を示している。 それゆえ、現在の調査の関心は、多角的なカクレキリシタンの神観念の分析にある。そのためには彼らの生きた信仰生活のなかから、彼らもほとんど自覚することのない、霊に対するプリミティブな感覚を抽出しなければならない。ゆえに聞取りのみならず、実際に行事が行なわれる時に、調査者が彼らと一体になって、その信仰を共感しあうことが肝要である。カクレキリシタンの神観念については、一応の結論を「現在のカクレキリシタンの神観念」(脇本平也編『現代宗教学』全四巻、第三巻 聖なるものへの回路 東大出版会 近刊)と題して発表の予定である。
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