研究概要 |
本研究は、自己利益の追求を特徴とする経済的合理性と普遍性を最低限の要求とする道徳的合理性との関連を吟味しようとするものであった。これら両者の関係についての一つの代表的な見方は、経済的合理性における自己利益の追求という要素は,単に説明のために導入された一つの前提にすぎず、しかもかなり疑わしい前提である、というものである。この立場は、経済学に造詣の深い著者たちによっても支持されている。例えば、佐伯『きめかたの論理』や塩野谷『効用と権利』では、合理的経済人の前提に対して疑念あるいは批判が表明されている。 それに対して、本研究では、自己利益の追求が「囚人のディレンマ」のような自己崩壊的な結果を生むということを基にしたうえで、その同じ自己利益の追求が当事者を普遍的な合意へと促しうるであろう、との方向を考えた。これは具体的には、ゲ-ムの理論でのBargainingの解の求め方に帰する。 実際の研究過程においては、古典的なナッシュ、ライファ、ブレイスウエイトの解をゴ-テイエMorals by Agreementで提出されたPrinciple of Minimax Relative Concessionと比較するという形をとった。現時点までに到達した成果は、1)前三者の解の持つ難点をゴ-ティエは克服したと言える、つまり、初期状況が公正であるとすれば、ゴ-ティエの解はBargainingの当事者に公正な成果を保証するもである、2)初期状況についてのゴ-ティエ説はノ-ジック的な自由尊重主義に立っているが、これが公正であるか否かについてはさらに検討を要する、というものである。
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