研究概要 |
東京国立博物館に保管されている約2千有余件の上代裂は、列品として法隆寺宝物館で陳列されているものと、未整理品として一括保存されているものとに分れられる。このうち後者の染織品は、かつて寺から献納される際に一時、正倉院に仮置きされていたため、搬出の際に染織品の一部が取り違えられてしまった。このため、献納宝物の中の東大寺(正倉院)伝来の染織品が、また、正倉院の中には献納宝物のそれらが混在しているのが現状であった。こうした現状を踏まえて、染織品を一点ごとに精査し、基礎資料となる調書を作成することを第一の目的とするととともに、これらの染織品と関連がある国内所在の上代染織品も調査し、同様に調書を作成することであった。この調書は、材質・織法・繍法・文様・縫製法・用途等を記入するとともに、さらに、一歩踏み込んで、織物の文丈・〓間幅、経糸と緯糸の色数、糸の撚りなどという裂そのものを精査しなければ得られない基礎的データーを記入するものである。その結果を基に、国内所在の上代裂を可能な限り把握し、整理分類して、時代なども明らかにするとともに、法隆寺や正倉院との識別も試みるつもりであった。これまでに東京国立博物館をはじめ、奈良国立博物館・京都国立博物館・国立歴史民俗博物館・正倉院事務所・白鶴美術館・黒川古文化研究所・藤田美術館・大和文華館・法隆寺・叡福寺等を調査し、ある程度の調書を作成することができた。しかし,点数の多い東京国立博物館と法隆寺はすべてにわたっての調査は完了していない。このため、報告書は調査を終了した機関のうち裂帳を所蔵していた歴博・白鶴・黒川・藤田・大和の各機関の染織品につて、法隆寺裂と正倉院裂との識別等についてまとめることにした。なお、調査の完了していないものについては可能な限り調査を継続して行ない、国内所在の上代裂の資料を充実したものにして行きたい。
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