研究概要 |
われわれは常に〈動き〉のある世界に生きている.動きを認識する個体自身が動いているということは何故,認識されない/あるいは自明の理として認識されているのだろうか.本研究ではこれまで余り議論されてこなかった〈知覚する側の動き=眼球運動〉が〈視認された対象物の動きの知覚=運動知覚〉の修飾に大きな役割を果たしている事を実験的に論じた.ヒトが外界の環境から感覚器官を通して情報を摂取する方法には種々の様式がある.とりわけヒトの視知覚がもつ情報処理能力には極めて高い水準での多様性と処理能力が備っており,それらの機能分担の解明,神経径路の特定,相互機能の連関の研究は現在精力的におこなわれている.視知覚の研究を進めて行く時に,眼球運動にかかわる研究は、感覚器及び運動効果器としての二重の機能が重畳していることを峻別して注意しておく必要がある.本研究ではこの点に着目して以下の様な研究成果を得た. 1)頭部塔載型の小型液晶ディスプレ-を用いて,頭部移動時にも視覚刺激の提示が定位置から逸脱しないシステムを作製した.2)同上ディスプレ-上に前年度開発した運動視覚刺激を提示し,自発的/他動的に頭部の回転運動を起こさせ,その時のVOR成分を眼球運動から抽出し,その補償的眼球運動と運動視覚刺激の運動印象の関連性を検討した.3)各種の,滑らかな運動を伴った視覚刺激を高精細グラフィック・ディスプレ-上に生成するためのアプリケ-ション・ソフトウエア-を開発した.4)運動視各刺激の誘目性と誘導特性について評価をおこなった.別紙記載の各研究報告で詳細が明らかであるが,結論的には眼球運動それ自身が極めて大きく運動知覚を修飾するという多くの結果が得られた.この成果はヒトの視知覚研究に大いなる研究の展望を開いたと言える.
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