研究概要 |
平成2年度:McGurk効果の生起するレベルが,情報処理過程のどの段階であるかについて,弁別実験を行って調べた。その結果,(1)McGurk効果の生起は,聴覚的レベル以降でかつ音韻レベルよりも前であると考えられる,(2)母音の知覚は子音の知覚を規定し,子音は母音の音韻カテゴリではなく音響的特徴に基づいて判断される,等の知見を得た。 平成3年度:平成2年度の結果を別の角度から分析した。さらに,1音節の場合の刺激の組み合わせを変えたMcGurk効果についての弁別実験を行い,McGurk効果の生起レベルについてより深い検討を行った。また,音韻知覚モでルの中に視覚情報からの要因を組み入れて,モデルの精緻化をはかった。その結果,(1)McGurk効果の生起するレベルが聴覚的レベル以降でかつ音韻レベルよりも前であることを確めた,(2)この場合,一部の刺激の組み合わせに刺激提示順序効果の生起することが認められた。(3)(2)の結果は,視聴覚情報統合後の記憶が弁別に重要な役割を果していることが示唆されたので,刺激提示順序効果について合成母音を用いた弁別実験を行った。その結果,刺激のプロトタイプの形成が重要な影響を及ぼすことが考察された。(4)音韻のカテゴリ知覚のプロセスを検討するため,音韻以外のカテゴリ知覚の例として絶対音感保持者の音程判断の場合を取り上げ,比較した。その結果,音韻の場合は文脈に規定されやすいことが認められた。(5)音韻知覚モデルの中に視覚情報からの要因を取り入れ,単語や文の知覚を説明するための基礎となる音韻知覚過程モデルを提案した。 今後は,音韻知覚過程モデルの考え方を検討するための実験を積み重ねる予定である。また,日常生活における文の知覚について検討したい。
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