研究概要 |
従来のヴィラの研究は主として経済史の観点から農業生産,労働力としての奴隷労働及びヴィラ所有者の経営目的が論議されてきた。しかし最近における研究はヴィラで生産される葡萄酒やオリ-ブ油の商業取引や遠隔地へのこれらの製品の海上交易、ポンペイの近郊におけるヴィラの所有者の墓の規模や場所にもとづくかれらのポンペイ市における社会的地位,ヴィラの建築構造及び壁面におけるフレスコ絵画の編年研究を含むようになってきた。 本研究はまず文献資料を中心にしてイタリアにおける大土地所有(latifundium)の形成過程を考察した。カト-,ヴィルロ,コルメルラによる農事記によれば,葡萄酒及びオリ-ブ油がヴィラの主要な農業製品であった。ヴィラにおける主要な労働力は奴隷であったが,収穫期には自由労働も使用された。また農業経営の目標は明らかに企業家的精神であった。さらにポンペイ近郊における多くのヴィラの具体的調査にもとづき次のことが明白となった。(1)、ヴィラは多くの中規模のものであること。(2)、ヴィラの規模やその他の特徴は農事記者によって記述された内容とほぼ一致していること。この研究成果は古代学研究所刊行のOpuscula pompeiane I(1991)に発表した。 本研究の第二の目的はヴィラの遺跡の総目録を集成することであった。しかし資料が厖大なため,完成するには至らなかった。今後完成を目指して努力する積りである。この総目録はわが国ばかりでなく,世界のポンペイ学の発展に大きな貢献をなすものと確信している。
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