転写および注釈から成るこのプロジェクトのうち、転写の部についてはすでに平成2年と3年に2巻の報告書の形で公表した。今回は残りの注釈を公表するものである。この注釈は第1巻と第2巻のテキストに見られるヘブライ語、アラム語、スラブ語、およびその他ゲルマニストに理解因難な語や成句を拾い出し、それに詳細な注を付したものである。このような作業はイディッシュ語やヘブライ語、それに何と言ってもユダヤ教に関する深い造詣がなければ到底なし得ない。その意味で国際的な協力がぜひとも必要とされる。幸い筆者は二人(後には一人)の人物の協力を抑ぐことができた。最も協力してくれたのは、現在はカナダ在住のリトアニア出身のユダヤ人でイディッシュ語を母語とするL氏である。L氏はかつては雑誌編集者で、また「イディッシュ語大辞典」の協力者を勤めたこともある。 作業はまず筆者がテキストから難語を拾い集め、それに協力者が起源を示した上、それぞれについてコンテキストに留意しつつ、詳細な注をドイツ語で施し、それを筆者がワープロで清書するという形を取った(当初予定していたヘブライ文字での見出し併記はあまりに煩雑なため断念した)。それには長時間を必要としたが、それに加えて日本・カナダ間の頻繁な通信にも時間を要したこと、および協力者の病弱とが重なったため最初の公利予定時期を大きくオーバーすることになった。ともあれこうして完成した注釈は第1巻78頁、第2巻61頁という大部なものになった。この注釈によってテキスト2巻の理解は飛躍的に容易になり、これまで閉ざれていたカフカとイディッシュ演劇の関係の研究は大きく前進することになるだろう。しかしこのプロジェクトはまだ当初の予定の半分が終わったにすぎない。残りの半分を仕上げることが今後の筆者の課題である。
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