研究概要 |
本研究はサッチャ-政権による憲法の運用とそれに対する批判とを検討することによって、イギリス近代憲法の特質とその今後の行方を占うことを目的としていた。 [研究発表]〓記載の諸成果によって解明された論点は少くない。(1)近代イギリス憲法は,権力分立と人権保障という立憲制の内実を,主として「政治的」プロセスを通じて実現しようとしている点に,その主たる特質を有している。(2)この政治的民主主義を実現させえた力は,市民社会の安定した自律的諸関係の存在であった。これを前提として,市民社会の意思の国家への反映のル-トが確立されることによって、イギリス憲法は「政治的」に(「司法的」にでなく)自由を実現してきたのであった。(3)現在提起されることの多い憲法草案は,違憲審査制を中心とする「司法的」立憲制であって,これは近代英国立憲制と根本的に異なる思考に拠っている。(4)この新提案の背後には,市民社会の主体的自己規律への自信喪志とEC統合の前進という国の内外の動きがある。(5)新提案は近代英国憲法の本質の変更を迫るものである。その点でサッチャ-が伝統的憲法を利用してその空洞化をはかろうとしたのとは異なるが,いわば一種の国家改造という面では,同一の線上にあると言える。 本研究を通しで,今日の英国での憲法論議の歴史的文脈が明らかにされ,さらに英国憲法の西欧立憲制の中での個性が認識されたことの意義は重大である。
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