研究概要 |
1判例・学説の分析 敵対的企業買収に対する対抗措置の可否に関しては,取締役の経営判断を尊重し基本的に対抗措置を肯定する立場(米国・日本の判例)と,株主の意思を重視し対抗措置を否定する立場とが対立している。しかし、肯定説は所有による経営コントロ-ルという会社法の基本的秩序に反する点で理論的弱点があり,また否定説はグリ-ンメイラ-をも保護しかねない点で説得性に欠ける。 2アメリカ州法の展開 最近のアメリカの州会社法は,一定割合以上の株式取得につき残在株主の同意を要求したり,あるいは一定割合以上の株式の取得者の企業結合取引を制限したりすることによって,より直截的に敵対的企画買収を防止しようとしている。しかし,それらの規制方法は会社法の基本原理を損なうおそれの強いものといわざるをえない。 3課題の解決方法 このように従来学説・判例・立法が敵対的企業買収をめぐる複雑な利害対立を合理的に調整しえてこなかったのは,株式会社の現実から遊離した静態的な会社支配理論に依拠していたためと考えたい。本研究は,まず支配株主と一般株主との地位の異質性に着眼し資本多数決制度を再構成することによって動態的な会社支配理論を構築し,次にその支配理論を用いて株式会社における財産管理構造の特質を解明することによって,会社法の場で敵対的企業買収を根本的に規制していくことが論理的に可能であることを論じている。 本研究により明らかとなった理論によれば,敵対的企画買収について適切な規制が可能となるばかりではなく,友好的企業買収乃至第三者割当増資,合併・営業譲渡など会社支配にかかわる諸問題,会社法と証券取引法との連係についてより合理的な解釈論・立法論も展開できよう。この成果を生かして今後より具体的な解釈論・立法論を提示したい。
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