研究概要 |
本研究は、建設省行政を素材に高度産業社会における行政の役割を検討した。その研究で次の諸成果を得た。 1.建設省を分析するための分析枠組を考案した。まず、行政需要概念を相対的需要および絶対的需要に類別し、さらに行政内容を事業型、計画型、市場型として類型化した。需要類型と内容類型にしたがって、それぞれの行政のやり方(行政スタイル)の特徴を析出した。以上の理論化の試みにより、これまでほとんど研究がなされてこなかった建設省行政の概要を明らかにした。大蔵省など経済政策官庁の研究は豊かになりつつあるが、事業実施官庁である建設省の研究が殆どない中で、一応の分析の出発点を与えることができたと考えている。 2.上の理論化に基づき、歴史的な分析を行った。毎年度の建設白書の分析や新聞記事の検索などにより、1948年建設省設立時以来の行政の変遷を辿り、災害復旧や河川改修、産業基盤整備など絶対的需要型の行政から、需要の多様化への対応を迫られた相対的需要型への建設行政の転換を実証した。 3.実証分析としては、1970年代はじめから現在までの建設省行政の変遷をとくに詳しく分析した。それによれば、(1)高度経済成長末期、(2)総需要抑制期(74ー5年)、(3)景気対策期(76ー9年)、(4)行政改革期(80ー7年)、(5)景気回復期との時期区分を行い、その間の行政スタイルの変化を次のように析出した。すなわち、「基盤整備」から「機能整備」型への変化,行政施策の多様化、要綱行政の増加、民活施策の増加などを明らかにした。それを要約するならば、「規制」型から「誘導」型への変化と言える。この行政スタイルの変化は、日本社会の成熟が背景にあり、これまでの上からの行政では対応できないことを示している。 4.今後の課題は、国土建設行政の国際的比較分析、さらにはそれに基づく現代国家の役割の分析である。
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