研究概要 |
マネジェリアリズム・モデルは,株主と識別された経営者の動機に焦点を当てるが、乗取りの分析については資本市場での評価率を企業行動の制約として使うことによって、モデル本来の意義を発揮できなかった。本研究ではM&Aの分析に当っても経営者に独自の効用関数あるいは欲求値が保持されるとして、買収側企業の資産評価を軸にして「経営者的乗取りの理論」を提示した。それは、伝統的な効率性上昇を動機とするアプロ-チと対置されて,当該企業間に「評価の乖離」を生み出す事情を論じるもので、コングロマリット合併の隆盛を見た60年代後半と、大型合併と同時に事業の再編活動を特徴とした80年代との2つのM&Aブ-ムが、このアプロ-チによっていかに対照されるかを見た。それによれば、60年代には成長株に特有の株価形成がなされ,株式交換を通じて金融上の利益を利用できたことが割引率を下げ、過大な資産評価に導いたことをみた。これに対して70年代後半から80年代のM&Aは、コングロマリット合併に伴なわれた過剰な実物資本の下で、自社の基幹事業に合致した事業部門等をめぐり企業間に評価の乖離が生ずることから「敵対的」企業置収が優勢となり、これに対する防衛上、株価や配当性向の引上げ,債務を発行して将来の配当支払を約束するといった企業経営上の転換が生じたことを論じた。 なお以上の研究を通じて、経営者の資産評価と富保有者のそれとが、一方は長期的・固定的であり、他方が短期的・投機的である上で対照されたことが、ケインズが『一般理論』で関心とした企業と投機との緊張関係について堀り下げてみるという関心を生み、ここに上記研究の系として、ケインズ経済学における市場メカニズムに関する論文を生み出すこととなった。
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