1986年9月に締結された「日米半導体協定」は、91年7月末に期限が切れる。協定の延長は日米政府間で協議中であるが、アメリカ半導体工業会(SIA)は、いわゆる「シェア問題」をめぐって強硬姿勢を貫こうとしているようにみえる。ところで、アメリカ製半導体の日本市場でのシェアは、最新数値では世界半導体市場統計(WIST)ベ-スで13.2%、通産省調べで19.0%であった。このシェア数値の乖離は、協定締結時から問題視されてきた(86年当時WTST8.6%、通産省10.3%)が、現在ますます広がっている。 研究課題「日米半導体産業組織の相互浸透と相補性に関する研究ー国際寡占、国際競争力評価への一視角ー」において具体化した第一課題は、この問題に直接関連する。すなわち「日米半導体産業の競争力を一般的に評価しようとするならば、まずもってアメリカの内製メ-カ-の半導体生産量と、日本のメ-カ-の内製量を明らかにしなければならない」というものであった。そこで明らかになったことを、先のシェア数値の乖離と関連させて述べると、WSTS統計がメ-カ-出荷ベ-スで表示されているのにたいして、通産省の数値は日本の半導体ユ-ザ-60社の需要ベ-スで表示されているということである。WSTS統計にはIBM社などのCaptive Manufacturerは含まれていないし、通産統計では日本の巨大エレクトロニクスメ-カ-の自社内調達額をどのように処理しているのかが不明である。したがって、この双方の統計数値から日米半導体産業における国際競争力を評価することには無理があり、ましてや国際寡占の現状を確定することは因難である。さまざまな統計の整理作業をとおして明らかになったことは、1980年代後半には、アメリカのキャプティブの内製額は半導体総出荷額のおよそ30%、日本の自社内調達額は半導体総出荷額の26%と推定される。これらのことからも、一見激しさを増しているように報じられている半導体をめぐる日本産業組織の競争の底流では、巨大企業間協調の条件が整備され、国際寡占化への傾向は強まっているものと考えられる。
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