本研究の目的は、可微分多様体上の幾何学的構造、解析的構造及びそれらの相互関係について考察することであった。具体的には、(1)コンパクトリ-マン多様体上のラプラス作用素について、固有値分布(量子力学系)の性質と、余接バンドル上のハミルトン力学系(古典力学系)の性質の関係を明らかにする。特に、リ-マン計量の変形のもとでの固有値の変化、ハミルトン構造の変形について研究する、(2)コンパクトリ-マン多様体上のベクトル束で定義されるラプラシアンに関して、固有値と幾何学的性質の関係を明らかにする、ことが課題であった。 まず、課題(1)について、得られた成果を述べる。リ-マン多様体が与えられたとき、その余接バンドル上には自然にハミルトン力学系(測地流)が定義される。リ-マン計量を変形するとき、ハミルトン力学系の構造が不変に保たれるとき、その変形をシンプレクティック変形と呼ぶ。一方、リ-マン計量から定まるラプラス作用素の固有値が不変に保たれるとき、等スペクトル変形と呼ぶ。等スペクトル変形については、近年ゴルドン達の研究があるが、それは、左不変計量をいれたリ-群を主な対象としてなされている。本研究では、まず、リ-群上の左不変計量のシンプレクティック変形で非自明なものが存在するための条件を明らかにした。そして、いくつかの群に対して、非自明なシンプレクティック変形が存在しないことを示した。さらに、ゴルドン達による等スペクトル変形のあるものがシンプレクティック変形でないことを明らかにした。 次に課題(2)に関しては、以前、ファイバ-が1次元、すなわち、直線束の場合をおもに考察したが、本年は、ファイバ-多次元のベクトル束を研究中であり、これについては、今後も継続してゆきたい。
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