研究概要 |
平成2〜3年度の2年間の研究成果は次の通りである。 1.弦の理論に特有な性質として“標的空間双対性"というものがある。これは,例えば半径Rのト-ラスにコンパクト化した弦の物理が,半径1/Rにコンパクト化したものと全く同じという性質で,この双対性変換R→1/Rは,d次元ト-ラスの場合,O(d,d;Z)まで拡張されることが知られている。私はB.Zwiebachと共同で,この弦の顕著なO(d,d;Z)双対性が,本質的には弦の場の理論のゲ-ジ対称性の一部として含まれていることを明らかにした。 2.3次元時空での重力理論が,物質場を結合させた場合にも,物質場の個数Nの逆数1/Nによる展開を用いて,くりこみ可能となる事を示した。しかし,この時,重力場の伝播凾数にタキオン極が存在し,物理的にはこの真空が不安定であることを示している。このことの物理的解釈や困難の回避の方策については現在も研究中である。 3.青木,坂東,Mitchardらと共同で,QCDに於けるπ中間子の崩壊定数を,東島近似のBetheーSalpeter方程式で用いてより厳密に求める方法を考案し,それまで知られていたPagelsーStokerの近似式がかなり良い近似を与えることを明らかにした。また同様な近似BS方程式を用いて,QCDのP,A_1,スカラ-,メソンの質量や崩壊定数を数値的に求め,それらが驚くほど良く実験値を再現することを見出した。しかし最近,東島近似がカイラルWardー高橋(WT)恒等式を破っている事が発見され,私はMitchardと共同で,running結合定数の引数にgluon運動量を用いればカイラルWT恒等式を満たすこと,更に,Ladder近似と無矛盾にするには,ゲ-ジ・パラメ-タを運動量の関数にする非局所ゲ-ジをとる必要がある事を明らかにした。また,この非局所ゲ-ジの無矛盾なLadder BS方程式を用いた数値計算は,以前の結果と殆んど同じ数値と再現する事を確めた。
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