研究概要 |
重フェミオン物質や高温超伝導物質の電子スピン共鳴(ESR)による研究は電子間相互作用が強く、これまで困難であると考えられてきた.本研究の目的はこれらの系の物質の母結晶を調べたり,ESRの出やすい標的物質を添加したり,さらには強磁場で局在スピンを復活させることでESRを観測し,これを手掛かりに,重フェルミオン物質や超伝導物質の物性を測面から解明することである.平成2年度・平成3年度の研究実績は以下の通りである. (1)Nd_2CuO_4のESR:電子キャリア-型の高温超伝導物質の母結晶Nd_2CuO_4のESRを調べた.30K以下で非常にブロ-ドなスペクトルを発目した.これがNdスピンによるもので5K以下の温度でg値が異常に減少し,異方性が現れることを見いだした.[J.Phys.Soc.Jpn.59(1990)3019].また強磁場磁化過程の最近の研究からNdイオンにCuイオンのstaggeredーfieldが作用していることが発見された.[J.Magn.Magn.Mater.90&91(1990)79.]これらをもとにNd_2CuO_4のESRの異常性を検討した結果,発見したESRはNdーCuネットワ-ク中の反強磁性共鳴であることを見いだした.[J.Phys.Soc.Jpn.61(1992)1019] (2)不純物スピン共鳴:現在次のような計画のもとで研究を遂行している. 代表的重フェルミオン物質(CeCuSi_2,CeAl_3)や高温超伝導物質(YBa_2Cu_3O_4,Nd_2 _xCe_xCuO_4など)にSーstateをとるGd,Euを微量混入させ,この物質のESRを調べる.このESRのgーシフトと線幅の温度変化から伝導電子作り出す有効磁場およびフェルミ面付近で状態密度に関する知見を得る.さらにこのESRの角度変化を調べて高温超伝導状態の異方性を追究する. (3)その他の稀土類酸化物の研究 稀土類酸化物の磁気ー光効果を調べるための実験装置を設計・製作した.これを用いてTb含有硼硅酸塩ガラスのファラデイ効果を調べた.その結果,室温から110Kまでの温度範囲では,ベルデ定数の温度依存性に反磁性項による効果が現れることを見いだした.この効果を補正したベルデ定数の値は,ほぼキュリ-法則に従うことを見いだした. さらに,阪大強磁場実験施設において強磁場磁化過程とフェラデイ効果との対応関係について調べた.その結果,4.2K,40Tまでの測定範囲ではフェラデイ回転角は磁化によく対応していることを見いだした.
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