研究概要 |
遷移金属化合物のd電子は電子相関のかなり強い遍歴電子と考えられる。従ってこれらの物質の磁性、とりわけ有限温度の振舞いは第一原理的なバンド計算で与えられた電子状態を出発点とし、スピンのゆらぎの理論を適用することによって論じなければならない。我々はその出発点として電子状態を正しく把握するためにすでに代表的な物質群としてNiAs型化合物、1T型及び2H型層状化合物とその層間化合物、Mn_3MC(M=Zn,Ga,Sn)型化合物のバンド計算を系統的に行いこれらの物質の結合様式を明らかにすると共に磁性の解明を進めてきた。 二年間にわたる本研究では新たに、立方晶ペロブスカイト型化合物Mn_4N,Mn_4CとCu_2Sb型化合物Mn_2As,Mn_2Sb,Cr_2As,Fe_2As,Cu_2Sb,MnAlGe,MnGaGe,MnZnGe,Cu_3Au型化合物FePt_3,FePd_3の非磁性状態、強磁性あるいは反強磁性状態のバンド計算をセルフコンシステントAPW法、LAPW法を用いて行い、分散曲線、状態密度を求め、またボンドオ-ダ-を計算して結合の様子を明らかにした。いずれの物質でもバンド計算から得られた磁気モ-メントの大きさは全磁気モ-メントだけでなく、部分状態密度から求めた各原子サイトのモ-メントも実測値とよい一致を示している。また、バンド計算で得られた状態密度の全体的な形状は、光電子分光、逆光電子分光の測定で得られたスペクトルとよく対応していることがMn_2Sb,MnAlGe,Cr_2Asについて確かめられた。これらの結果は、遷移金属化合物では少なくとも基底状態はバンド理論でよく記述できることを示している。さらにHubbardハミルトニアンに基づいて非磁性状態の不安定性の議論を行い、Cu_2Sb型化合物(Cr_2As,Mn_2As,Fe_2As)が異なる磁気配列を示す要因はこれらの物質の非磁性状態のバンドのFermi level近傍の結合様式の違いによるものであることを見出した。
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